漱石墓参りと「夏目漱石の妻 」漱石独特の結婚観とは


土曜ドラマ 夏目漱石の妻 | NHK放送史(動画・記事)

#夏目漱石#漱石

「西日温める 漱石の墓碑 残り雪」
「花よりも 菓子持てと漱石 雪まくら」
漱石墓参りと、NHKドラマ「漱石の妻」長谷川博己尾野真千子主演ドラマについて書いてます。

 

 

念願の漱石墓参り


ようやく念願の漱石墓参りに行けた。2022年(令和4年)新年早々の昨日6日の東京積雪10cmも、 風のない快晴でみるみる溶けて、 日陰にしかまとまっては残ってない。
金曜は仕事が早く終わるので、 漱石墓碑がある都営雑司ヶ谷霊園近くの歯医者に来たのだが、 一時間ほどまだ時間があった。前回は日が暮れてあきらめたが、 今日はまだ日が高い。今日なら墓参りに間に合う!

 


地図を見て、東池袋駅の長い地下通路を出る。冷えるが、 風はないのでそんなに寒くもない。日が当たると暖かく、 雪も日陰以外はほぼ無くなっている。


五分ほど西へ歩くと、雑司ヶ谷霊園に突き当たる。 土の上はまだ雪が残っていて風情のある感じ。


Googleマップ漱石墓碑とあったので、 案内に従ってまた五分くらい歩く。ほぼ霊園の中央かな。

 

 


が、たどり着いたのは、違う人のお墓だった。 霊園事務所も開いているか分からないので焦るが、 検索するとすぐ霊園有名人お墓マップが出てきた。


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すると、すぐ近くの一本違う通りだった。 メイン通路には墓碑は背中を向けているので、 回り込んで土に足を踏み入れる。


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サクサク雪を踏んで行くと、 大きな椅子のような石造りのお墓があり、 水鉢に大きく夏目の二文字と、てっぺんに夏目家の菊の家紋がある。


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線香も持って来なかったが、とりあえず手を合わせる。 お賽銭は違うよね。

 


それにしても、 漱石が百年経っても読まれ続けているのはやっぱり凄いことだな~ と感嘆する。

 

それだけの時の試練に耐えるには、お経のように、 もっとも深く普遍性のあるものを得るのも大事だが、 漱石さんの場合は、今でも国語の教科書に載るくらい、 取っつきやすく読みやすいという、得がたい特長を持っている。

 


それは、前回も述べたように、やはり日本の今日の書き言葉を、 結果的に形創った代表的人物の一人が、 夏目漱石その人であったからではないだろうか。

 

 


雑司ヶ谷霊園は木がまばらで空が開けていて、 夕陽と青空がとても気持ち良かった。

 

そういえば、漱石山房記念館で俳句募集していたからひねり出してみる。
「西日温める 漱石の墓碑 残り雪」
「花じゃなく 菓子持てと漱石 雪枕」
いや、花も持ってってなかったんですが、漱石さんならそう言うかなと(∩´∀`)∩

 

 

 

 

NHKドラマ「夏目漱石の妻」面白い


さらに翌日のこと。生誕祭だという大戸屋ですき焼きランチ。半額で人が多いだろうと、 開店時間ちょい前に行ったが、すでに8人ほど並んでいた。 名前を書いて並び直し、なんとか1ターン目に入店。
で、すき焼きをおいしく食べ終わるが、レジで蒼白になる。サ、 サイフ忘れた!!(⊃ Д)⊃

 


が、スマホ決済のメルペイが使えたのでギリセーフ。危なかった。

 


しかし、サイフがないので行動が大きく制限されてしまう。 メルペイはまだ使えない店も多く、マクドナルドでも使えない。 散髪にも行こうと思ってたのに。。

 

 


ということで、 前に時間潰しでよく来ていた川口SkipシティNHK映像ライ ブラリーへ。最新の映像はないものの、 アーカイブされたNHKのドキュメンタリーやドラマが無料で観れるのだ。

 


めぼしい大体の恐竜や宇宙のドキュメンタリーは観賞していたので、 他のジャンルでの人気映像を探してみる。

 


すると、「夏目漱石の妻」長谷川博己尾野真千子主演のドラマが見つかった。平成28年、 つまり2016年放送とのことで、五年くらい前のドラマらしい。 知らなかった。

 

アレだな。今日サイフ忘れたのは、これを観ろということだったんだな、と一人納得する。


土曜ドラマ 夏目漱石の妻 | NHK放送史(動画・記事)

 


夏目漱石が出てくるドラマといえば、 これもNHK制作の傑作ドラマ「坂の上の雲」がある。

 

日露戦争勝利の立役者秋山好古(よしふる)、真之(さねゆき)兄弟、そして正岡子規の三人の物語が、 映画に劣らないクオリティで展開され、個人的には名作「独眼竜正宗」 と同じくらい面白いドラマだった。

 


キャスティングも絶妙で、主人公秋山真之本木雅弘、 好古に阿部寛正岡子規香川照之といった演技派豪華キャスト陣が、 凄まじい化学変化を起こしていて、とても見応えがあった。

 


なにしろ、あの正宗役だった渡辺謙がナレーションのみ出演という贅沢さ。しかし、 この渡辺謙のナレーションが実に味があるのだ。

 

 


また正岡子規の妹、律(りつ)の役で菅野美穂が出ていたが、 真之に秘めた恋をする、はにかみやためらいの演技に、 改めて菅野美穂の演技力と表現力のレベルの高さを再認識させられた。一番の名演技だったと個人的には感じた。

 


さて、この「坂の上の雲」にも夏目漱石が、 小沢征悦キャストで出てくる。 なかなか存在感のある雰囲気で悪くなかった。ただ、 少し陽気過ぎるキャラではあった。漱石特有のアンニュイさは感じなかった。

 


それよりも、香川照之正岡子規が、 あまりにもハマり過ぎていて、その添え物のような存在だった感じ。 実際、物語の根幹に関わることもなかったし。

 

 


翻って、今日全四話のうち二話観た「夏目漱石の妻」は、 正岡子規役の人が知らない役者さんで、 香川子規のように演技に遊びや幅がない感じで、一本調子で実に惜しい。

 

 


子規も漱石も、 独特の諧謔性、つまりユーモアがその根底には共通してあるのだが、 そこの表現が薄い、というか浅いのだ。

 


漱石役の長谷川博己も、悪い役者ではないものの、 二作目の段階では漱石の神経質さばかりが強調され、 人物的な魅力があまりにじみ出ていない。

 


もっとも、これは漱石本来の気質が、 結婚によって変化していく前段階ともいえ、 そういう視点で漱石という人物を見たことはこれまでなかったので 、新鮮でもあった。

 


同じく、尾野真千子主演の鏡子夫人も、“ 漱石はあえて不美人な人を奥さんに選ぶつもりでいた” という知識はあったので、 いささか美人過ぎるという印象ではあった。 森三中の大島さんが本来のキャスティングとしては正解だったかも 。

 


しかし、同じく知識としてはあった、“入水自殺未遂事件”が、 映像として再現されると、 やはり相応の葛藤があったことが伝わってきた。

 


それまで奔放な人柄で描かれていた鏡子夫人は、やはり単なるお嬢様でもなく、 本当に漱石と向き合おうとしていたのだろう。

 


そして、漱石自身も、まだまだ完成された人格ではなかったため、 その後もイギリス留学で不安定になり、 帰国後ついには追跡妄想神経衰弱と病気診断されてしまう。

 


この当時、幼少だった娘筆子と恒子が、 原因も分からずかんしゃくを爆発させる父が怖かった旨を手記に残してあるのを、早稲田の漱石山房で読んだが、 実際かなり病的だったらしい。

 


ドラマの中でも描かれているが、 監視されているという妄想にさいなまれていたり、 その妄想のせいで娘につらく当たったりと、 かなりの人格破綻者っぷり。

 


あげくに離縁状や、 離婚の催促の長文手紙を鏡子の実家である中根家に何度も送りつけてもいる。漱石さん完全にヤバい人である。

 


ここで普通の人だったら、とっくに離婚していたことだろう。

 


いや、嫁実家の中根家も、そんな手紙を度々受け取りながら、よく離縁させなかったものだと思う。

 


ここらへんの機微は、実際には分からないものの、ドラマでは舘ひろし演じる鏡子の父親が、実に味わい深い対応をしていた。

娘二人を連れて帰ってきた鏡子に、誰を咎めるのでもなく「いつまで居るつもりだ?」と、冗談まじりに問い掛けるのだ。

 

それに対し、一瞬の間の後、「いつまで居させてもらえます?」と笑顔で問う鏡子。図々しいそれではなく、漱石宅へ帰るのが前提であることや、親子の絆を感じれる良いシーンだった。

 

 

そりゃね、こんなシーンは所詮フィクションでしかないのだが、嫁、嫁実家ともに離婚しなかった、させなかった事実の、これ以上なく素晴らしい描写に感じる。

信頼が元で、すべての関係が成り立つ優しい世界。

 

 


結局、鏡子夫人は実家に一時避難はしたものの、「 病気なら看病しなくては」と、漱石を見捨てなかった。 言われる通りに離婚していたら、 国民作家夏目漱石は誕生してなかったかもしれない。

 


そして漱石の元へ帰って来ては、料理もできず、 切った大根をただ齧っていた漱石に(これも実話)、 家族というものを段々と分からせていくのである。


もちろん、そうと分からせる明確な描写などはない。

しかし、 頑な漱石の心を家庭人や、後の人格者へと変貌させていったのは、「 太陽と北風」の寓話のように、漱石がまとっていた鎧を、 自ら脱がせていった鏡子夫人の力によるものだったのではないだろうか 。

 

 


二話目のラスト近くで、元貴族院書記官長だった鏡子夫人の父親が没落して、漱石に借金の保証人になってもらおうとするエピソードが描かれる。

 


先に、父親にそれを相談された鏡子。
しかし、この段階でも漱石と“戦争”状態だった鏡子は、これをキッパリと断る。 

 

「うつむいて 膝に抱きつく 寒さかな」


漱石の句を口にして、肩を落として去る舘ひろし演じる父親。畳に深々と礼をしたまま、涙をこぼす鏡子。そして障子を開け、それを察する漱石

 


漱石は結局、四百円という当時での大金を用意するが、この時生まれたのが、「智に働けば角が立つ 情に棹させば流される 意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」という有名な言葉かもしれないと思った。

 


それにしても、この「夏目漱石の妻」というドラマは、 コメディタッチの前半と、シリアス調の後半のバランスがとてもよく、 面白い作品です。残り後半二話も観たら、 改めて感想を追記しようと思います。